今夜も仕事が終わって疲れた体を休めるために、「ビールやワインで乾杯!」という方も、少なくはないでしょうか。
そして、ほろ酔い気分のまま夜の本睡眠のためにベッドへ、ということもあるでしょう。
しかし、寝酒を飲むことが健康的な睡眠を妨げる可能性があることはご存知ですか?
睡眠は、私たちの身体や心にとって非常に重要な働きをしています。
そこで今回は、寝酒と睡眠の関係について詳しく解説し、健康な睡眠を手に入れるための方法も合わせてご紹介します。
それでは見ていきましょう!
寝酒とは何か?
寝酒とは、夜の本睡眠のために、就寝前にアルコールを飲むことを指します。
多くの人が、アルコールのリラックス効果や、睡眠を促すために寝酒を飲むことがあります。
少し古い資料にはなりますが、2002年に行われた10か国を対象とした国際睡眠疫学調査によると、不眠解消のためにお酒を利用する日本人の割合は、約30%(10か国中で一番高かった)だったとのことです。
また、16,804 名の日本人を対象に行われた大規模調査では,週に 1 回以上、睡眠の補助として寝酒を利用している割合は、男性で 48.3%、女性で 18.3% と、男性の場合は約半数が寝酒を利用していたとの結果になりました。
加えて、同研究では、男性では 55 ~ 59 歳まで、女性では 40 ~ 44 歳まで寝酒を利用する人は、徐々に増加し、その後年齢が上がるにつれて減少していたことも確認されたとのことです。
寝酒を飲むのは、疲れがたまっている時やストレスが溜まっている時、不安や心配事がある時など、睡眠について不安を感じる時に多く見られます。
しかし、寝酒を飲むことが健康的な睡眠を促すための最善策とは限りません。
その理由はなぜなのでしょうか?
次は「寝酒の効果と副作用」についてみていきます。
- 日健教誌 第 28 巻 第 3 号 2020 年「日本の男性労働者における対人関係および寝酒の問題と睡眠との関連性」
- 横浜市「お酒と睡眠 ~「眠るための飲酒」は避けましょう~」
- ScienceDirect「Use of alcohol and hypnotic medication as aids to sleep among the Japanese general population」
寝酒の効果と副作用
さて寝酒には、どのような効果があるのでしょうか?
また、どのような副作用があるのでしょうか?
寝酒の効果
寝酒には、一時的なリラックス効果や眠気を誘う作用があります。
それは、お酒に含まれるアルコールが関係しているからです。
アルコールには、GABA(γ-アミノ酪酸)と呼ばれる中枢神経系を抑制する働きのある神経伝達物質と似た働きをします。
そのため、中枢神経系が抑制されることで、神経細胞の興奮が抑えられ、リラックス効果が出ます。
まとめると以下となります。
- 寝酒を飲む
- アルコールが脳に到達
- GABA受容体に結合して、GABAと同じ働き(中枢神経系の働きを抑制)をする
- 中枢神経系の神経細胞の興奮が抑えられる
- リラックス効果が生じる
人は、リラックスすることで、副交感神経系が優位となり、心拍数や呼吸数、体温が下がることによって眠りやすくなります。
そのため、寝酒をすることによって、入眠しやすくなります。
寝酒の副作用
一方、寝酒には深刻な副作用もあります。
寝酒の副作用には以下のことが挙げられます。
- 深い眠りを得ずらくなり、逆に浅い睡眠が増える(=熟睡できない)
- 中途覚醒
- 早朝覚醒
- 睡眠時無呼吸症候群
上記のような副作用が出てしまうのは、全てアルコールが関係しています。
というのも、アルコールは体の中で分解される過程で、「アセトアルデヒド」と呼ばれる毒性の高い物質を生成します。
このアセトアルデヒドが睡眠に悪影響を及ぼします。
まず、アセトアルデヒドの生成過程は次のようになります。
- アルコールを摂取する
- 胃や小腸などの消化管で身体に吸収される
- 血中のアルコールが肝臓に到達する
- 肝臓でアセトアルデヒドへ分解される
- 肝臓で分解しきれなかったアルコールは再び身体の中を巡ったあと、肝臓に戻ってきてアセトアルデヒドに分解される
※アルコールは血中でも分解されます。しかし、肝臓での分解に比べると非常に微量です。
身体に吸収されたアルコールは早ければ数分~数十分程度で分解され、アセトアルデヒドが生成され始めます。
そして、生成されたアセトアルデヒドには覚醒作用があるため、深い眠りを得ずらくなり、逆に浅い睡眠が増える(=熟睡できない)たり、中途覚醒や、早朝覚醒に繋がります。
一方、アルコールには、睡眠時無呼吸症候群の呼び水となってしまうこともあります。
というのも、アルコールには、筋肉を弛緩させる作用があります。
これは、先ほど「寝酒の効果」でもご説明したアルコールのリラックス効果によるものです。
アルコールを摂取すると、アルコールが中枢神経系の働きを抑制します。
中枢神経系の働きが抑制されることで、筋肉の緊張が弱まり、筋肉が弛緩することとなります。
そして、その働きは呼吸をするために重要な「上気道(鼻から喉頭(のど)までの気道)」を支える筋肉も弛緩させてしまいます。
「上気道の筋肉が弛緩=舌を支えていた筋肉も弛緩」することで、重力によって舌などの組織が下がり、気道が狭くなってしまいます。
そして、睡眠中に何度も呼吸が止まる「睡眠時無呼吸症候群」が起きてしまいます。
寝酒によってアルコールを摂取してから睡眠時無呼吸を発症するまでの過程を以下にまとめます。
- 寝酒をしてアルコールを摂取
- アルコールが中枢神経系の働きを弱める
- 中枢神経系の働きが弱まり、筋肉が弛緩する
- 筋肉の弛緩によって、重量区の影響で舌などの組織が下がり、気道が狭くなる
- 気道が狭くなることで、息が吸いづらくなる
- ときおり呼吸が止まり、睡眠時無呼吸症候群となる
上記にてご説明した通り、寝酒は一定の効果はあるものの、大きなデメリットを受けてしまう可能性もあります。
とはいっても、「お酒は飲みたい!」という方もいると思います。
なので、次からは、寝酒のデメリットを知ってもなお、お酒を飲みたい人向けに、「快適な睡眠をするためのお酒を飲む際の注意点」についてお話しさせて頂きます。
快適な睡眠をするためのお酒を飲む際の注意点
では、寝酒のデメリットを知ってもなお、お酒を飲みたい人向けに、快適な睡眠をするためのお酒を飲む際の注意点を、ご紹介します。
- “眠るための飲酒”及び”就寝直前の飲酒(寝酒)”を避ける
- 就寝2~3時間前までに飲酒を終える
- 少量の飲酒にとどめておく
“眠るための飲酒”及び”就寝直前の飲酒(寝酒)”を避ける
まずは、「”眠るための飲酒”及び”就寝直前の飲酒(寝酒)”を避ける」ようにしましょう。
というのも、眠くなるまでに飲むためには、相当量の飲酒が必要になるからです。
加えて、飲酒が習慣化するとアルコールに対する耐性ができてしまいます。
つまり、飲酒を日常的に繰り返すほど、今まで飲んでいて効果が表れていた量では足りなくなり、どんどん飲酒の量が増えることになります。
そのため、アルコール依存や、アルコール分解する臓器である肝臓への負担が増加して肝硬変へ発展したり、血圧上昇からの高血圧といった問題へ発展したりします。
眠るために飲んでいたお酒によって身体を壊してしまっては意味がありません。
あくまで、お酒は、「寝る」ためではなく、「リラックス」ために嗜むようにしましょう。
就寝2~3時間前までに飲酒を終える
次に、お酒を飲むなら「就寝2~3時間前までに飲酒を終える」ようにしましょう。
もちろん、人によってはアルコールの分解速度が速く、もっと早い時間で就寝しても問題ないという方もいます。
ですが、一般的には、「就寝2~3時間前までに飲酒を終える」ことが推奨されています。
というのも、夜の睡眠の質をある程度確保するためには、ある程度時間を空ける必要があるからです。
その時間が「就寝2~3時間前」となります。
ただ、混乱するかもしれませんが、完全に睡眠に適した血中アルコール濃度のレベルになるまでには、それよりも長い時間を要します。
一般的には、睡眠に適した血中アルコール濃度のレベルに要する時間は、「飲酒終了から6~7時間」とされています。
なので、目安は「就寝2~3時間前」として、可能な限り、飲酒終了から就寝までの時間を空けることが望ましいです。
また、飲酒をしたら、飲んだのと同等か、それ以上のお水を飲むようにしましょう。
アルコールが早く体外へ排出されたり、飲酒に伴う脱水症状を防ぐこともできます。
ちなみに、お酒ごとのアルコールが体外に排出されるまでの時間は以下となります。
酒の種類 | 飲酒量 | アルコール濃度 | 体外へ排出までの時間 |
---|---|---|---|
ビール | 缶1本(500ml) | 5% | 約4時間 |
焼酎 | ロック、グラス1杯(150ml) | 20% | 約4時間 |
日本酒 | 1合(180ml) | 15% | 約4時間 |
ワイン | グラス1杯(100ml) | 15% | 約2時間 |
ウイスキー | ロック、グラス1杯(150ml) | 40% | 約8時間 |
少量の飲酒にとどめておく
最後に、お酒を飲むなら「少量の飲酒にとどめておく」ようにしましょう。
飲酒量が増えるほど、アルコール摂取量が増えます。
アルコール摂取量が増えるほど、分解によって産生されるアセトアルデヒドの量も増えることで、覚醒作用が強くなります。
また、アルコールの利尿作用によって、睡眠途中のトイレによる中途覚醒も増え、飲めば飲むほど、良質な睡眠から遠ざかってしまいます。
それらを最小限に抑えるためにも、飲酒量は少量にしておきましょう。
ただ、「少量」と言われても、どの程度の飲酒量なら良いのか、ご存じない方も多いのではないかと思います。
厚生労働省によると、節度ある適度な飲酒量は、1日平均純アルコールで約20グラム程度が目安とされています。
「純アルコール約20グラム」というと、ビールであればロング缶1本分程度です。
その他のお酒だと以下となります。
酒の種類 | 飲酒量 | アルコール濃度 |
---|---|---|
ビール | ロング缶1本(500ml) | 5% |
焼酎 | ロック、グラス1杯(100ml) | 25% |
日本酒 | 1合(180ml) | 15% |
ワイン | グラス2杯弱(200ml) | 15% |
ウイスキー | ダブル1杯(60ml) | 43% |
チューハイ | 缶1本(350ml) | 7% |
また、自分がどれだけのアルコールを摂取したかは以下の式で計算することができます。
お酒の量(ml) × アルコール度数/100 ×0.8(アルコールの比重)= 純アルコール量(g)
例えば、アルコール度数5%のビールロング缶1本(500ml)を飲んだ場合のアルコール摂取量は以下となります。
500ml(お酒の量) × 5/100(=5%、アルコール度数) × 0.8(アルコールの比重) =20g(純アルコール量)
※なおアルコールの比重は「0.8」で固定してしまって問題ありません。
普段の飲酒は、夜の本睡眠の質を下げてしまわないためにも、上記の一覧表や、上記計算式から節度ある適度な飲酒量を守っての飲むようにしましょう
ただ、知人や友人と、たまに楽しく飲むときまで、厳密に守る必要はありません。
そんな時は、楽しさを優先しつつ、飲み過ぎないようにセーブしながら飲むようにしましょう。
寝酒の代替策
ここまでで、「寝酒とは?」や「寝酒の効果と副作用」、「快適な睡眠をするためのお酒を飲む際の注意点」について学んできました。
その中で、夜の本睡眠にとって寝酒は良くないということは、ご理解頂けたのではないかと思います。
ただ、それでも「お酒を飲まないと眠れない。だから、寝酒はやめられない」という方もいるかもしれません。
なので、寝酒の代替策についてここではご紹介します。
寝酒の代替策としては以下のようなものがあります。
- 瞑想や深呼吸などのリラックス法をためす
- カモミールティーを飲む
- ヨガをする
- 電球色の部屋でゆったり過ごす etc
上記に共通していることは、「リラックスする」ということです。
リラックスすることで、交感神経が落ち着き、副交感神経が優位となります。
人は、副交感神経が優位になることで、眠りやすくなります。
なので、上記にあげた方法以外でも、リラックスできる方法があれば、それを継続的に続けてみましょう。
まとめ・復習
最後に今回の記事のまとめと復習です。
今回は、
- 寝酒とは何か?
- 寝酒の効果と副作用
- 快適な睡眠をするためのお酒を飲む際の注意点
- 寝酒の代替策
について解説させて頂きました。
「1.寝酒とは何か?」では、寝酒とは「就寝前にアルコールを飲むこと」で、「リラックス」や「睡眠」を促すために行われることを学びました。
国際睡眠疫学調査によると、日本人が寝酒をする割合は①約30 %でした。
日本人で行われた大規模調査では,週に 1 回以上、睡眠の補助として寝酒を利用している割合は、男性で② 48.3%、女性で③ 18.3% で、男性では ④55 ~ 59 歳まで、女性では⑤ 40 ~ 44 歳まで寝酒利用者は増加し、その後年齢が上がるにつれて減少することを学びました。
「2.寝酒の効果と副作用」では、まず、寝酒の効果には、一時的なリラックス効果や眠気を誘う作用があり、それは、⑥アルコールが関係していることを学びました。
そして、⑥は⑦GABA(γ-アミノ酪酸)と似た働きをして、中枢神経系が抑制されることで、リラックス効果が出ることを学びました。
一方、寝酒の副作用には以下のことがありました。
- 深い眠りを得ずらくなり、逆に浅い睡眠が増える(=熟睡できない)
- 中途覚醒
- 早朝覚醒
- 睡眠時無呼吸症候群
上記のような副作用が出てしまうのは、全て⑥が関係しており、⑥が分解されて生成される⑦アセトアルデヒドが睡眠に悪影響を及ぼすことを学びました。
「3.快適な睡眠をするためのお酒を飲む際の注意点」では、お酒を飲んでも快適な睡眠がとれる方法を学びました。
紹介した方法に以下のモノがありました。
- ⑧“眠るための飲酒”及び”就寝直前の飲酒(寝酒)”を避ける
- ⑨就寝2~3時間前までに飲酒を終える
- 少量の飲酒にとどめておく
ちなみに、⑨については、アルコールが体外に排出される時間を下記の一覧で学びました。
酒の種類 | 飲酒量 | アルコール濃度 | 体外へ排出までの時間 |
---|---|---|---|
ビール | 缶1本(500ml) | 5% | 約4時間 |
焼酎 | ロック、グラス1杯(150ml) | 20% | 約4時間 |
日本酒 | 1合(180ml) | 15% | 約4時間 |
ワイン | グラス1杯(100ml) | 15% | 約2時間 |
ウイスキー | ロック、グラス1杯(150ml) | 40% | 約8時間 |
また、「少量の飲酒にとどめておく」では、一日のアルコール摂取量として、厚生労働省による、節度ある適度な飲酒量として、1日平均純アルコールで⑩約20グラム程度が目安とされていることを学びました。
一日の摂取目安は、下記の一覧通りでした。
酒の種類 | 飲酒量 | アルコール濃度 |
---|---|---|
ビール | ロング缶1本(500ml) | 5% |
焼酎 | ロック、グラス1杯(100ml) | 25% |
日本酒 | 1合(180ml) | 15% |
ワイン | グラス2杯弱(200ml) | 15% |
ウイスキー | ダブル1杯(60ml) | 43% |
チューハイ | 缶1本(350ml) | 7% |
なお、自分がどれだけのアルコールを摂取したかは以下の式で計算することができることも学びました。
⑪お酒の量(ml) × アルコール度数/100 ×0.8(アルコールの比重)= 純アルコール量(g)
お酒は飲み方さえ間違えなければ、人生を楽しくしてくれる素晴らしいモノです。
しかし、間違った飲み方をしてしまうと、睡眠をはじめとした多くの健康被害をもたらします。
ときには友人や知人と楽しく飲んだり、仕事の関係で飲む必要があったりする場面もあるかと思います。
ですが、そんな時でも、あまり羽目を外したりせずに、節度ある飲酒を心がけましょう!
本記事は以上となります。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
記事を読んで頂いた皆さんの睡眠の質がより良いモノとなれば、筆者としても嬉しいです。
記事が「良いね」と思った方は、人に紹介していただけたら嬉しいです!
これからも、皆さんのお役に立てるよう精一杯記事を書かせていただきます。
今後とも、よろしくお願いします!
「記事の執筆者の紹介」→プロフィール
参考情報・参考書籍 まとめ
- 日健教誌 第 28 巻 第 3 号 2020 年「日本の男性労働者における対人関係および寝酒の問題と睡眠との関連性」
- 横浜市「お酒と睡眠 ~「眠るための飲酒」は避けましょう~」
- ScienceDirect「Use of alcohol and hypnotic medication as aids to sleep among the Japanese general population」
- 国立研究開発法人 国立成育医療研究センター「消化管の部位とはたらき」
- eーヘルスネット「アルコールの吸収と分解」
- アサヒビール「アルコール代謝のしくみ」
- むらいクリニック「寝酒と睡眠の関係」
- 中央自動車工業 SAFETY LIFE MEDIA「「寝たら抜ける」は本当? アルコールが抜けるまでの時間の真偽」を引用
- 厚生労働省「アルコール」
- 特定非営利活動法人ASK「アルコールが体から抜けるまでの時間」
- サントリー「適量ってどのくらい? 推奨される飲酒量」
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